大判例

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高知地方裁判所 昭和57年(ワ)455号 判決 1983年9月05日

原告

オーシャンリース株式会社

右代表者

前田章

右訴訟代理人

川添賢治

川添博

被告

大正木工株式会社

右代表者

井上丑五郎

被告

井上丑五郎

主文

被告らは各自原告に対し金六八三万二七〇〇円及びこれに対する昭和五七年六月一日から支払ずみまで年一五パーセントの割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。訴訟費用はこれを六分し、その一を原告の、その余を被告らの負担とする。

この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  原告

被告らは各自原告に対し金七九五万五九〇〇円及び内金六八三万二七〇〇円に対する昭和五七年六月一日から内金一一二万三二〇〇円に対する本裁判確定の日の翌日からそれぞれ支払ずみまで年一五パーセントの割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行の宣言

二  被告ら

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告は機器、什器、備品等のリースを業とする株式会社である。

2  原告は昭和五四年七月一九日、木工品、木製家具の製造販売を業とする被告大正木工株式会社(以下「被告会社」という)との間において左記リース契約(以下「本件リース契約」という)を締結し、被告会社の代表取締役である被告井上丑五郎(以下「被告井上」という)は、同社が右リース契約に基づき原告に対して負担する債務につき連帯保証をした。

(1) リース物件 貫流ボイラー付焼却炉一式、給水用軟水タンク、全自動軟水装置、薬注ポンプ、薬注タンク、定量送り装置、蒸気式木材乾燥機

右に関係する付属設備一式を含む。

(2) リース期間 昭和五四年七月二三日から七二ケ月間

(3) リース料 月額一五万八九〇〇円

(4) 右支払方法 第一月分は昭和五四年七月二三日に支払い、その後の月は各月検収応当日に支払う。

(5) 前払リース料 四七万六七〇〇円(最終の三ケ月分に充当する)

(6) 物件検収日 昭和五四年七月二三日

(7) 契約解除 被告会社が本契約に違反したときは原告は本契約を解除することができる。この場合、被告会社は残存期間の合計リース料を限度とする原告の請求する損害賠償金を原告に支払わなければならない。

(8) 遅延損害金 年一五パーセントの割合

(9) 合意管轄 高知地方裁判所

3  しかるところ、被告会社は昭和五六年九月分以降のリース料につきその支払をなさなかつたので、原告は被告会社に対し同五七年五月一〇日到達の内容証明郵便をもつて同月三一日までに延滞リース料の支払をなすことを催告し、あわせて右期間内にその支払がない場合は右期限の経過をもつて本件リース契約が当然解除となる旨の条件付契約解除の意思表示をした。

しかるに被告会社はその支払をなさなかつたので前記リース契約は同年五月三一日の経過と共に解除となつた。

4  よつて、原告は被告らに対し、各自延滞リース料から前払リース料を控除した残額金九五万三四〇〇円と昭和五七年六月分以降の残存リース料相当額の損害賠償金五八七万九三〇〇円との合計金六八三万二七〇〇円及びこれに対する前記契約解除の日の翌日である昭和五七年六月一日から支払ずみまで年一五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。

5  前記リース契約によると、被告会社が右契約に違反したときは被告会社はこれによつて原告が負担した一切の費用(弁護士費用、報酬を含む)を支払う旨の特約がなされているところ、原告は昭和五七年九月一日弁護士川添賢治、同川添博との間において、本件訴訟の着手金を金四四万円、報酬金を裁判によつて認められた金額の一割と約定し、着手金は即日支払を行なつた。

6  よつて、原告は被告らに対し、各自前記着手金及び報酬金の合計金一一二万三二〇〇円(一〇〇円未満切捨て)及びこれに対する本裁判確定の日の翌日から支払ずみまで年一五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告らの請求原因に対する認否と主張

1 請求原因13を認め、同2中の(7)のうち「被告会社は残存期間の合計リース料を限度とする原告の請求する損害賠償金を原告に支払わねばならない」との点を否認し、その余を認め、同4ないし6はいずれも争う。

2  本件リース契約の解除によつて被告会社が負担すべき損害金は、

(一) 原告から物件返還場所の指定がなされたにもかかわらず被告会社がその引渡をしない時には、物件返還完了までの間のリース料相当額(本件リース契約書の一八条一項(3))

(二) 物件返還時に物件が損傷等によつて常態と異なる状態にある時には、その修理に要する費用(同一八条一項(4))

(三) 物件の返還に要する費用(同一八条一項(5))

であつて、被告会社は右によつて算出された損害金を原告に支払わなければならないが、その損害金額は残存リース期間の合計リース料額を限度として、同額を超えることはできない(同二三条一項)のである。これはいわゆる損害賠償額の枠を定めたものにすぎず損害賠償額の予定額を定めたものでもない。

したがつて、被告らは原告主張のごとく、右合計リース料を限度にさえすればその損害額の特定は原告の請求どおりに従うがごとき契約は断じてしていない。

3  仮に、原告の主張するごとく、「残存リース期間の合計リース料額」をもつて当然に原告への損害賠償金とするのであれば、なぜ二三条は「合計リース残額をもつて賠償額とする」と定められていないのか、またかかる条項で損害賠償額が予定されているのであれば、なぜ一八条一項で被告が負担すべき金額の定めが取きめられているのか、まつたく理解に苦しむ。さらに、原告の主張するごとく、残存リース料額を当然の賠償金として支払うべきものであるならば、契約解除によつて原告は物件の返還を受け、かつ代金の全額相当額を賠償金として取受するものとなつて、かかる態様自体がきわめて不合理なものとなろう。

つまるところ、本件解除により原告に損害が生じているのなら、その損害の発生態様と金額を具体的に算出し、かかる金額の正当性を吟味したうえ、残存リース期間の合計リース料額の限度、すなわちその項の範囲内で、正当な損害額の賠償をなすべきものであると、被告らは思料するものである。

4  本件リース契約書の二四条には被告会社が弁護士費用報酬を負担する旨の記載がなされているが、被告会社は本件契約締結時においてかかる内容はまつたく見ておらず、また原告から何らの説明も受けていない。

5  仮に右のごとき約定がなされたと仮定しても、甲第一号証の二四条には将来被告会社が負担するべき弁護士費用、報酬の額あるいはその基準となるべき金額がまつたく明示されておらず、かかる約定自体が無効である。

原告は弁護士会の報酬規程により合理的金額が定まるというが、同金額は幅をもつたもので一定しておらず、着手金、報酬額の決定は事件の難易度及び該弁護士と依頼者との関係を考慮して定められるものであることから、その合理的な金額というものも訴訟依頼時における依頼者との間での合理性であつて、かかる合理的ともいうべき金額が、本件リース契約締結時における被告にとつて、了解、あるいは了解可能な状態にないことは、論をまたない。

三  右主張に対する原告の反論

1  原被告ら間の本件リース契約が被告会社の債務不履行等により解除されたときは、被告会社が原告に対しリース物件を返還し、かつ、所定の損害賠償金を支払わなければならないことは同契約書二三条に明定するところである。物件返還義務と損害賠償金支払義務とは併存しているのであつて、被告らはリース物件を返還すれば事たれりとするかの如き議論を展開するが、右は契約書上に何らの根拠のない独自の見解である。

原被告らの間で締結された本件リース契約はいわゆるファイナンス・リース契約と称されるものであり、実質的には被告会社に対し物件購入と同一の金融の便益を供与するものであり、リース料は供与された与信の分割返済であるという性質を有する。従つて、貸主たる原告は原則的には被告会社よりリース期間を通じてリース料の支払いを受けることによつて、与信の回収を図ることになるが、例外的な場合として、仮にリース契約が被告らの債務不履行等によつてリース期間の中途で解除されるに至つたような場合には、原告においてその時点で未だ回収できていない与信額の回収を図る必要が生ずる。

かかる観点に立つて、本件リース契約二三条において、被告らの債務不履行等に基づく契約解除の場合の約定損害金として残存リース期間の合計リース料額を限度とする損害賠償金の支払いが約定されたものであり、右は民法四二〇条一項にいう損害賠償額の予定に該当し、その有効視すべきことは勿論である。

2  更に敷衍するならば、本件リース料債権は本件リース契約の締結と検収の完了によつて同契約に記載された金額の全額について発生し、被告らは右契約によつて期限の利益が与えられておるに過ぎない。本件リース契約書(甲第一号証)の二三条一項ただし書きは契約解除時における損害賠償金額の上限を規定したものである。原告は被告会社に対し、民法五四五条三項に基づいて、本件リース契約の解除により契約本来の履行たる残存リース料の支払に代わる填補賠償として、残存リース料と同額の損害賠償を請求するとともに同契約書二五条所定の遅延損害金の支払を請求しているのであつて、被告らのこの点に関する主張は、民法と契約書の誤解より出ずるものであつて、誤りである。

3  原告は本件リース契約に当つては、被告らに対し、契約書用紙の条項を示し読了するための時間的余裕を与えた後、被告ら側の署名捺印を得たものであり、弁護士報酬に関する約定も他の条項と同様有効に成立したものである。また、金額につき基準が明示されていないと論難するが、各所属弁護士会には報酬規程が存在し、合理的な金額の算出はもとより可能であつて、右批難は当らない。

第三  <省略>

理由

一原告がリースを業とする会社であること、原告と被告らとの間に本件リース契約が締結されたこと(但し契約解除に伴う損害賠償額の予定の点を除く)、本件リース契約が原告主張のとおりの経緯で解除されたことは当事者間に争いがない。

二そこでまず、右契約解除に伴う損害賠償額の予定の点について検討する。

<証拠>によれば、原告と被告ら間に取り交わされた本件リース契約書二三条一項には、本件リース契約が解除された場合は「リース借主及び連帯保証人は直ちに物件をリース貸主の指定する場所に返還するとともに、リース貸主の請求する損害賠償金を支払わなければならない、但し損害賠償額は残存リース期間の合計リース料額を限度とする。」旨の記載のなされていることが認められるうえ、<証拠>を総合すれば、被告井上としては、被告会社の営業に必要な機器を設置するため、被告会社と取引関係にあつた訴外株式会社高知相互銀行の係行員である訴外武田元に融資の相談を持ち掛け、折衝の結果、右武田を通じて、右高知相互銀行の傍系会社である原告との間に本件リース契約を結ぶに至つたものであること、その際、右武田は同被告に対し、本件リース契約書中の各条項について詳細、具体的に説明したかはともかく、本件リース契約の骨子については十分説明をしたこと、被告井上としても、以上のような契約締結に至る折衝、説明を通じて、本件リース契約において毎月支払われるリース料はいわば、訴外株式会社高知相互銀行からの融資金の分割弁済金のようなものであり、右分割金の不払があれば、一般の金融取引においてもみられるように、融資金の一括弁済の必要の生ずることがあること、即ち、本件リース契約においては、リース料不払の事実があると今後支払うべき分割リース料は全額一時に支払わなければならなくなるといつた程度の認識は持つていたであろうことが認められ、これらの事実を総合すれば、被告井上が本件リース契約書を原告と取り交すことにより、原告と被告らとの間に右二三条一項に定める損害賠償額の予定の合意がなされたものと認められ、これに反する被告本人の供述は採用しない。

もつとも、右二三条一項の規定は、被告ら主張のとおり、その記載文書からして、損害賠償額の予定としては不確定的要素のあることは否定できないし、この点からみる限りは、同条項は「合計リース料額をもつて賠償額とする」と定めた方が一義的明確であると言うことができる。しかしながら、そのことから直ちに右条項をもつて、無意味、無効なものとするのは、本件リース契約の当事者の意思にも合致しないし、相当でないというべきである。けだし、同条項は契約当事者間の公平という見地に立つて合理的に解釈されなければならないことは言うまでもないことである。したがつてリース貸主において貸付物件を借主から引上げることにより、特別の利得を生じている場合などはリース貸主は残存リース料合計額から右のような利得を控除、清算した(清算の時期、方法の点は措き)額をもつて損害賠償額として請求すべきものと考えられる(最判昭和五五年(オ)第一〇六一号事件、同五七年一〇月一九日言渡、参照)けれども、それは右条項をもつてそのような巾をもつた損害賠償額の予定を定めたものと理解すれば足りることであるから被告らのこの点の主張は採用しない。

また被告らは右二三条一項が本件リース契約書一八条、一九条の規定損害金の条項に照らしても損害賠償額の予定を定めたものでない旨を主張するけれども、右二三条一項と一八条、一九条とは、それぞれ適用される場面が異なることは右契約書の文言記載から明らかであるから、これを同一に論ずることはできず、この点の主張も採用しえない。

ところで、右二三条一項を右のような意味での損害賠償額の予定を定めたものとした場合、原告主張のように延滞リース料から前払リース料を控除した残額と未経過のリース料の合計額(以下「残存リース料」という)の全額を請求できるかは問題であるけれども、原告が本件リース物件を被告会社から引上げたことなどによつて原告に生じた特別の利得は、たとえそれが公平の見地から選択上、不当な利得と目されるものであるとしても、やはり、一般的原則に依つて、被告らの主張立証責任に属するものと考えざるを得ないところ、本訴においては、右清算されるべき利得につき被告らからは何らの主張もないので、原告主張の残存リース料をもつて本件リース契約の解除に伴う賠償額と認めるほかはない。

三次に弁護士費用報酬の請求につき検討する。

<証拠>によれば、本件契約書二四条に「リース借主がこの契約に違反した場合は、借主はこれによつてリース貸主が支出した一切の費用(弁護士費用、報酬を含む)を負担する」旨の文言記載のなされていることが認められるけれども<証拠>によれば、本件リース契約はいわゆるファイナンスリースであつて、被告井上は本件リース契約締結の際、右契約書の各条項にわたつて具体的詳細な説明は受けておらず、本件リース契約を融資を受けるための一手段程度にしか考えていなかつたこと、しかるに一方、リース料の中には融資金に対する金利に相当するもののほか、リース物件に対する税金、保険料等の諸経費、リース契約締結のための手数料等が含まれているうえ、被告会社の債務不履行によつて契約解除がなされた場合は前記のとおり損害賠償額の予定の規定に従つて、被告らは残存リース料を当然一括弁済しなければならず、更にこれに対して年一五パーセントの遅延損害金を付すべき旨の特約が付されていることが認められること、また一般的にも債務不履行(とりわけ金銭債務の)と弁護士費用、報酬とは相当因果関係のある損害とは考えられていないところ、本件についても、原告において弁護士を選任しなければ訴訟の遂行が著しく困難であるといつた事情も窺えないこと等に照らすと、原告らに対し、弁護士費用、報酬を負担させることは被告らにとつて過酷な負担であつて、本件リース契約を結ぶに当つて、被告井上が、同契約書中にかかる弁護士費用、報酬に関する規定の存することを考えてもみなかつたと供述するのももつともというべきであるから右規定は、被告らに対し効力が生じていないと認めるのが相当である。他に弁護士費用、報酬に関する原告の主張を認めるに足りる証拠はない。

四よつて原告の本訴請求中残存リース料六八三万二七〇〇円とこれに対する昭和五七年六月一日から支払ずみまで年一五パーセントの割合による約定遅延損害金の支払を求める部分はいずれも理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき商法一九六条を適用して主文のとおり判決する。 (福田皓一)

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